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○ 楽ゆる式

整体の眼でみた世界。こころとからだが、楽にゆるむコツまとめ。心体脳の能力を最大に。

命のエピソード(1) ゴトウくんの思い出 (No.10)



ゴトウ君は、ほとんど目が見えない。

「視野狭窄」

どんどん、見える範囲の中に、闇が増えていく。

見える範囲が、日に日に狭くなる。

それは、どんなに怖いことだろうか・・・。



ゴトウ君は、鍼灸師だ。ハリを使って患者を癒す。

目が見えるうちに、ということで懸命に勉強した。

ひと一倍の努力の末、その資格と技術をえた。



彼の努力ぶりはお客さんにまで有名だ。

腕がよく、まじめで誠意のある人柄も人気だった。



ただ・・・非常に悔しいことに、ゴトウ君の病は、止まらなかった。

どんどん見えなくなる目。広がる闇。

彼の目は、ほとんど光を失っていた。



その後、かなり時間がかかったのだけれど・・・。



彼は、かなり腕が良くてほぼ伝説的な鍼灸師をついに見つける。

同じような患者さんを治したことがあるらしい。



ただ、結果の保証なんて、もちろん無い。

それは、ほんの一筋だけの希望だった。

彼は、その鍼灸師のもとに通い続けた。



しかし、よくなる兆候はなかなか見えなかった。

それでも、ゴトウ君はその先生を信じて、13回、通い続けた。

12回までは何の変化も感じなかったにも関わらず・・・。



そしてその13回目。



変化が、あった。

小さな「予感のようなもの」だった。

それは、他人に説明できるようなものではない。

だってその頃、もうゴトウ君の目の前は、

「本当に真っ暗」だったから。



ただ、その「暗闇」の、「厚み」が変わった気がしたらしい。

あいまいな感じがする表現だが、それはゴトウ君に

とっては、「治る確信」だったそうだ。



彼はその後、半年間、その暗闇の変化を、見守り続けた。

ハリを打ち続け、目によいとされることをすべてやり続けた。

そして、ほとんど見えないはずの目で、猛烈に働き続けた。

その闇の黒を、そしてその先にあるはずの光のカケラを、

見えない目で、あきらめずに見つめ続けた。



そして半年後。

彼の目は、光を取り戻した。

病院では 「希望をもたないほうが楽です」 とさえ言われていた

その目は、光を、取り戻した。




なんと、視力については両目1.5まで回復した。

治療経験のあったハリの達人も驚くような

「奇跡的な回復」だった。本当にすばらしい、回復だった。




その後のゴトウ君は、ますます超人のようだった。

目が見えない時期に、耳、鼻、皮膚感覚が、ものすごく

研ぎ澄まされていたから。

それに、さらに復活した視力が加わった。



今ゴトウ君は、ほとんど患者さんに触れもせずに手をかざして、

「これ以上ないという正確なポイント」を感じ取り、ハリをうつ。

それは、ほとんど神業のようだ。

ツボのほうから、合図をくれるらしい。もちろん、効き目は段違いだ。



彼は猛烈に勉強し、ヒト一倍働く。休みがあっても

図書館で勉強をするか、セミナーに出かけるか、

ヒトと会うかしている。(他業種のヒトをフンダンにふくむ)



ある日。

そんな彼を、彼の知り合いが介護のボランティアに誘った。

それには誰もが、

「こんなに忙しい彼に、そんなヒマはないだろう」と思った。



ところが、ゴトウ君は、あっさりと答えた。

「ぜひ連れてってください。興味もあるし、ヒマだから」。



周りは唖然とした。ボランティアとはいえ、かなり

時間も体力も使うハードワークだということは、

みんな知っていたから。



でも、ゴトウ君は、愚痴ひとつこぼさないだけでなく、

仕事はもちろん手を抜くこともなく、勉強のペースも落とさず、

ますますのワザの冴えを見せていた。介護のボランティアにも熱心で、

信頼を得て、活躍をしている。(結局、継続して通っている)



周りは応援しながらも、さすがに心配していた。

あのハードワークで、睡眠時間が3・4時間で、カラダが持つのか?と。



そしてそんな期間が半年以上も続いたとき、ついに周りのひとりが

ゴトウ君に尋ねた。



「ゴトウ君はどうして、そこまでやり切れるの?

 忙しさもただでさえ人並み以上なのに、どんな原動力があるの?」



興味半分。何かヒミツがあるならマネでもしたい。

そんなふうに思っての、質問だった。

何か、他人にはないすごいテクニックでも使ってるんじゃないか?

そんな安易なことを想像していただけだった。


ただ、その質問に対して、

ゴトウ君は何も迷わずに、笑顔で、即答した。




「だって僕、いま、目が見えるんですよ」



・・・と。



・・・それだけ、だった。



それ以外は、何も言わなかった。


特に説明を加えもせず、すぐに仕事に戻ってしまった。



――「だって僕、いま、目が見えるんですよ」



僕たちも、それ以上、何も聞かなかった。



聞く必要なんて、何もなかったから。




――「だって僕、いま、目が見えるんですよ」



そのセリフを言ったとき、

ゴトウ君は、とてもいい顔で笑っていた。

大げさではなく、本当にまぶしかった。

何かで胸をさされたような気がした。




そのあとしばらく、僕たちは、その場でなんだか動けずにいた。

放心していたのかもしれない。

何か、恥ずかしいような思いもあったような気がする。

気が付くと、事務の女の子が、発作でも起こしたみたいに、

泣いていた。



僕たちはたぶん、ゴトウ君のあのときの顔、そして声・・・

その声が僕らの胸に突き刺してきた、命のとどろきのような力を、

一生、忘れることはないと思う。



だって僕らは、生まれてきてからずっと、

この目が見えている・・・。

一度だって、ゴトウ君が向き合い続けたような闇に、恐怖したことはない。



あれからよく、考えるようになった。

僕らは、ずっとちゃんと見える目で、

これから何を見つめていけるだろうか。



ゴトウ君の目には、今どんな世界が見えているんだろうか・・・。



■追記:

「それがなくなったら本当にどれぐらい困るかを具体的にイメージする」

という行為は、かなり多くのことを教えてくれます。


あなたにとって、「身近にいてくれて当たり前のようになっている人」

「自分のカラダ」、その他について、ぜひ、考えてみてください。

本当に、どれぐらいの価値のものかが、よくわかります。


すごく、自然な、お仕着せでない 「感謝」 が生まれると思います。

そして本物の感謝には、本当に人を変える力があります。



ちなみにこの話のあと、タバコやギャンブルをすっぱりやめたり、

長く付き合っていた彼女にプロポーズする人が出るなど、

いろいろなプラスの波紋が起きてました。