楽ゆる式◎セルフケア整体

心と体が楽になるコツ。辛い症状・病気を自分で治したい人へのヒント。 ----- by 楽ゆる整体&スクール代表 永井峻

ブチ切れスキンヘッド「赤坂の今井さん」の教え

 ブチ切れスキンヘッド「赤坂の今井さん」の教え


「オラァ、お前、おっせぇんだよ!!」

今井さんは、一秒でキレる。

 


スキンヘッド。
こっちのヘソまで響くドスの効いた声。
口ヒゲ。
異常にせっかち。
家にいるのに、サングラス。
マッサージ受けるのに、サングラス。
(なんでやねんw)

……それが、今井さんだった。
50歳手前ぐらいだろうか。
赤坂の「ヒルズ」的なところの、30階に住んでいる。


「じゃあ、永井くん、今井さんとこ、マッサージ行ってきて。
面倒くせえから説明は省くけど、けっこう怖いから、
いろいろ気をつけろよ。
ただただ、無難にやってくればいいから」

院長の指示はそんなふうに、投げやりだった。
いつも通り。

ぼくはすぐスニーカーの紐をキュッと縛って、
駐車場まで5分ほど走り、原付を飛ばす。
もうこれぐらいでは、息は切れない。

出張マッサージの仕事にも、ようやく慣れてきた頃だった。

自分で「原付ならではの近道」を覚えないと
ぜんぜん間に合わない時間に予約を入れられる(笑)
だから、フルスピードで、飛んでいくしかない。
雨の日も、大雨の日も。

休日も原付を乗り回し、
渋谷区、港区、品川区、大田区の道を
カラダで覚える日々。

今回はじめて行く今井さんのタワーマンションだって、
ぼくの頭の地図には、もうマークされている。
予約時間の5分前には、着ける。


なのに……怒鳴られた。
すごい剣幕だ。

「大金持ちマンション」だからだろう、
オートロックが何重にもなっている。
受付の「執事」みたいな人から入館証をもらって、
そのバーコードを「ピッ」ってかざさないと、
エレベーターさえ、動かない。

それに少し手間取ったのが、いけなかった。


「オラァ、お前、おっせぇんだよ!!」

ドアベルを鳴らした途端、
軽く飛び上がるぐらいの大声を
浴びせられる。


「なんだこの、ハリウッド・ザコシショウの悪者版は!」
……今なら、そう思える(笑)
(知らない人は↓。※たぶん、少しだけ閲覧注意w
 https://is.gd/TuxZB0

でも当時は、
ほんとうに驚いたし、怖かった。
サングラスしてるから、
目がまったく見えないし。

なぜか、
フィリピン人っぽい女性がソファに3人ぐらい
座っていて、ニヤニヤしてこっちを見ている。
(毎回そうだったけど、ちょっと目を引くぐらいの
美人さんたちで、多分、今井さん所有の「お店」の子たち)


ただ、
ぼくは、大学の頃から「そうなった」んだけど、
【本当に怖いと、開き直る】という特技がある。
「煮るなり焼くなり、好きにしろ」って、思う。
「それしかない」なら、
「それ」を全力で、やるだけ。


『初めまして!
○○院の新人、永井です!
今日は、どこが特にお辛いですか?』


――すると今井さんは、
テレビを見るのを一瞬やめて、
サングラスをクイッと下にズラし、
のぞきこむように、こっちを見た。

……思ったより、キレイな目をしている。
まつ毛がだいぶん長い(笑)
(そう思って、ちょっとだけ余裕を取りもどす)

でも、一瞬の間の後に、

「おう、うっせえなお前!
 そんなもん、触りゃあわかんだろ!」

と、甘い顔は、してくれない。


ここで難しいのは「体勢」だ。

今井さんは、
横になってテレビを見ながら
マッサージを受けるのが、好きらしい。

こっちの立場からすると、かなり、やりにくい。
でも、
うつ伏せや仰向けを要求しようもんなら、
スリッパぐらい、投げられるかも知れない……


『では、失礼します』

会話は最小限にして、
ぼくはマッサージを始めた。

もともと整体から学び始めたものだから、
マッサージ(気持ちよさ)に関しては、
ぼくは先輩たちに、勝てない。

しかも、お客さんが求めているのは、
整体ではなくマッサージだ。
そして、かなり古くからのお客さんである今井さんは、
「ぼくよりずっとマッサージが上手い先輩たち」を
知っている。

正直、怖い。
また怒鳴られるかも知れない。


でも、こういう人は、
「人をビビらせるような言動をする」くせに、
「ビビッた人」を見ると、さらに怒ったりする。

だからぼくは、
ものすごく冷静な感じで、ことを進めた。

肩井(けんせい)、
曲池(きょくち)、
合谷(ごうこく)……

一般的なツボを、丁寧に圧していく。


「お前、俺を見たらわかるだろうけど、
 強めにしろよ!あ?」

って言ってたから、
じんわりじんわりと、しっかり、体重を乗せる。


異変が起きたのは、
ぼくが「手三里(てさんり)」という
腕のツボを圧したときだった。


「ん……うううぅぅぅぅ~ん…………」

うなり声が、聞こえる。
低い。

普通だったら「効いてるサイン」なんだけど、
この今井さんに関しては、わからない。
しかも「あぁ」とか「おおー」とかなら分かりやすいのに、
なんで、うなるんだろう(笑)
怖さしかない……

かといって、
止めたら止めたで怒られそうだし、
『大丈夫ですか?』みたいな聞き方をしようものなら、
「強めにしろ」って言った彼のメンツに関わってしまう……

ぼくはしょうがなく、
粛々と、腕のツボ圧しを、続ける。


「んがっ!……ぐぬぅぅうぅぅうううう、
んはぁああぁ……!」


次は、
手首の近く「内関(ないかん)」を圧したときだった。
今井さんから、
長くて派手なため息が漏れでた。



しかし……
あれ?
怒られない。

あんなに何にでも文句を言いそうな人が、
何も言ってこない。

なんなら、
マッサージしやすい感じに、
ちょっとだけうつ伏せっぽくなってきてる。

っていうか、そういえば、
ずっとテレビばかり気にしてたのに、
テレビなんか全然見えないほうに、
顔の向きも変わってる。
目も閉じてる。
(まつ毛、長っ!)


めっちゃマッサージに集中しとるやんけ。
これは……
なんだかイケそうな氣がする。


猛犬を飼い慣らしてるような気持ちになったぼくは、
次々に、今井さんのツボを攻めた。

その都度、
今井さんからは「色んな吐息」が漏れた。

「かはっ!……くうぅぅうぅふぅ……」とか、

「ん”!……ん”ん”!……ん”!……ふぅ~」とか。

しまいには、

「あぁあぁ~~~んぐぐ、
 な……なんで……わかるんだあぁぁぁ……!」って。

――いやいや、
あんたの「あえぎ」を聞いてりゃあ、誰だってわかるわ!
つってね(笑)



気が付けば、
完全にうつぶせになった、大人しいスキンヘッド。
落ち着いてよく見たら、身長は150cmちょっとぐらい。
ハリウッド・ザコ今井さんがいる。

こうなってくれば、
もともと得意な整体が、存分にできる。

すっかり調子にのって来たぼくは、

『今井さんのお疲れは、この硬いところ……
押されてもわかると思うんですけど、
腰椎の1番から来てるんで、ここだけ調整しますね?』

……と、プロっぽさを、のぞかせて見た。


すると、うつ伏せ状態から、
ちょっとだけアゴを浮かせた今井さんは、
こっちを見ることはしないまま、
これまでで一番小さな声で、
言った……


「それって、
 ………………いたいの?」



ぼくはこの瞬間、
このスキンヘッドの変なおじさんが、
好きになってしまった。

いや、本当は違うかな。
さっきの、
「あぁあぁ~~~んぐぐ、なんで、わかるんだあぁぁぁ!」
の時点で、もう好きになりかけてたかな(笑)

強がってる皮を1枚だけめくったら、
根がめちゃくちゃ素直な人だった。

怖いところ、いっぱいあるんだろうけど、
「そこ」は、ぼくには関係がない。



マッサージが終わった後、
今井さんは「ちょっと待ってろ」と言って、
別の部屋から、サイフを持ってきた。
(パンパンに膨らんだ、長財布)

「これで、いいのか?」
と言って、一万円を差し出す。

『あ、いえいえ、じゃあ、お返し、5,000円ですね。
ありがとうございました』
って、ぼくは答えた。

そして試しに、

『疲れが出ていきますから、
お水はたくさん飲んでくださいね』

って、言い添えてみる。


そしたら、今井さんは、

「ん……おう……」

と、ボソッと言った。

目は一回も、合わせてくれなかった。


ぼくはお礼を言って、
けっこう距離のある玄関に、向かう。

「おつかれダタネー!」

アジアなまりの3重の声が、
追いかけてくる。
ソファにいた、彼女たちだ。

ニヤニヤしてたのが最初は気になったけど、
今思えば、あの子たちがリラックスしていた証拠だし、
けっこう大事にされているのかも知れない。

今井さんからの言葉は何もなかったけど、
ぼくは決して悪くない気分で、
赤坂の立派なタワーを後にした。

メールには、もう15分後の予約情報が、入っている。
ぼくはまた次の場所へ、原付を飛ばす。



その日の深夜2時、
ようやく事務所に帰ったぼくを迎えたのは、

「永井さん! 何やったの?」

という好奇心の面々だった。

その中には、ぼくが、
『マッサージでは多分、この人に一生勝てない』
と打ちのめされた先輩も、混ざっている。

どうやら、
今井さんが次回の予約を取ったらしい。
しかも、ぼくを指名したとのこと。


「今井さんがこの10年ぐらい、
誰かを指名したことなんか、一回もなかった」


院長が驚いた顔で、言う。


ぼくは、少しだけ考えてから、

「院長に教わったとおり、
 ただ無難にやっただけですよ」

とだけ、答えた。



それが、
今井さんとぼくの、出会いだった。


そのあと、
今井さんが引っ越すまで、
10回ほど、あのタワーマンションに呼ばれた。

2回目には、サングラスをはずしてくれた。
(長まつ毛ザコシショウ!)

3回目のマッサージが終わった後は、
サイフを取りに行くときに、
冷蔵庫から水を取り出して、ぼくに向かって少しだけ、
持ち上げて見せてくれた。
(あとで水を飲んで下さいねって、いつも伝えてたからだと思う)

5回目ぐらいのときには、
「今日も任せるわ」といって、
テレビを切って自分からうつ伏せになってくれた。

あのとき、ぼくがどんなに、うれしかったか………
彼は、知らないだろう。
いつも以上にツボを責めちゃったから、
あの日の今井さんの「あえぎ」は、ものすごかった。

「おっせんだよ!」
という怒鳴り声なんて、初回だけだった。

先輩たちに聞いたら、
「上に立った感じにするために、あれは毎回やるんだよ
嫌な感じだけど、気にしなくていいんだよ」
と、笑っていた。

今井さんが実はどんなに大人しくて素直な人か……
先輩たちは、知らないんだろう。


ガラは悪い、
顔は怖い、
言葉はきつい。
先輩たちのほとんどは、
今井さんを怖がったり、嫌ったりしていた。


でも、
「ここで自分も、やっていける」
と思えるぐらいの自信をぼくにくれたのは、
他でもない、今井さんだった。

10回……
だいたい3ヶ月ほどの付き合いだったけれど、
今井さんの体質は、みるみる良くなっていった。

「もう今日は肩はいいからよ。
その……背骨をやってくれ」

って言われたときは、
今井さんの頭をなでたいぐらい、うれしかった。
(それはさすがに、殴られそうだけど)

誰かのマッサージではなく、
ぼくの「整体」を求めてくれた、最初の人だった。


表面が怖い人って、いるんだな。
言葉通りじゃない人って、いるんだな。
根が素直な人って、嫌いになれないもんだな。
つい親しみを感じるし、何より、
ほんとうにカラダが良くなるのが、早いんだな……


あの頃、
何かがちょっとでも違っていたら、
ぼくは整体でなくマッサージのほうに、
行ってしまっていたかも知れない。

彼は変な人だったけど、恩人です。



今井さんのことを考えると、
ぼくは、思うんです。

リアクションって、ほんとうに大事。

自分から発するアクションよりも、
ずっと変えやすいしね。

できるだけ……

素直に楽しむ。
素直に喜ぶ。
素直に味わう。
素直に笑う。


ストレッチでも、体操でも、
「気持ち良さ」を、ちゃんと味わう。

たまにはテレビじゃないほうに、顔を向けて。
「んああぁぁぁああぁあ~~~~」って、
言ってみる。
派手な吐息を、もらしてみる。
今井さんみたいに「七色の吐息」じゃなくても、いいから。

形をただマネするのでもなく、
ルールばかり気にするのもお休みして、
「自分の心地よさ」を大切に、表に出してみる。


その『素直さ』を、人は見ていたりする。
はじめて「あなたをどう助けたらいいか」が、
わかったりする。

そして、
その『素直さ』を、あなたの脳は必ず見ている。
はじめて「あなたをどう助けたらいか」が
わかったりする。

それはきっと、
「手段」よりずっと、大事なことなんです。



きっとこの文章は、
2020年最後の、ぼくからのメッセージになるでしょう。

年末年始、いい時間を、過ごされますように。
あなたが、あなたの体や大切な相手に、
いつも以上に、素直でいられますように。
いつも以上に多くを、受け取れますように。


ではでは、暮れぐれも、良いお年を!
素直になりくいときこそ「素直になれたときの価値」って、
すごく大きいよね。簡単ではないけれど。