楽ゆる式◎セルフケア整体

心と体が楽になるコツ。辛い症状・病気を自分で治したい人へのヒント。 ----- by 楽ゆる整体&スクール代表 永井峻

「ハライチ岩井」の骨を拾ったのは、松本人志だった

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「やりたいこと」は、評価されにくい。
「評価されること」は、やりたいことと違う。

きっとこれは、
誰にでもある葛藤なんでしょうね。

ぼくも、くり返しくり返し、
頭を悩ませることです。


だからぼくは、
「M-1グランプリ」でのハライチ岩井さんと、
審査員だったダウンタウンの松っちゃんのやりとりが、
たまりませんでした……

 

M-1グランプリ。

賞金、1000万。
今後のテレビ出演の大加増。
仕事、名誉、成功、ネームバリュー。


多くのものがかかった、年に1回の勝負の場で、
「やりたいこと」と「評価されること」の
究極のせめぎ合いを見せてくれたのが、
ぼくにとっての、M-1でした。


やりたいことは「自己表現」、
評価されることは「人気攻略」と言いかえてもいいでしょう。


まず、
「自己表現」ができなければ、目立ちません。
キラリと光る個性が見えないと、優勝はできない。
でも、少しでも強すぎれば「アク」がたったり、
理解されなかったりします。
(その傾向は、年々ひどくなってるかもね)

ただし、
「人気攻略」ができなければ、不安定です。
決勝の審査員だけでなく、
「決勝までの審査担当」や、会場のお客さんなど、
「多数に受けるツボ」を心得ていないと、
そもそも、決勝までも行けないでしょう。
とはいえ、攻略に走り過ぎると、
じわじわと確実に、自分の表現は死んでいきます。


個性は出す。
でも、アクは抜く。
(ただし抜きすぎない)

他とは明確に違う新しさを生む。
でも、わかりにくさは徹底的に省く。
(ただし奥行きは欲しい)

そういう、
作っては削り、作っては削りを無数に繰り返して、
「一世一代の戦い」に備えるのだと思います。


ぼくも、動画や本など、
表現の仕事に関わるはしくれです。
だから、規模やレベルは違うでしょうけども、
その葛藤は、想像できるつもりです。


答えは手探りするしかなく、
お手本はあるように思えるし学べることは多いけど、
受けた影響の消化のやり方や度合いを少しでも間違えると、
やはり、個性が死んでいく……



そんな意味で、
ぼくにもっとも強烈な印象を残したのが、ハライチでした。


もともと、相当好きな2人です。

澤部なんて、芸人さんとして超一流だと思います。
岩井も、根っから面白いことが好きで、
澤部の面白さが好きで、考えて考えて考え抜く人。

岩井は、某深夜番組(ゴッドタン)で
「腐り芸人」(笑)として切れ味鋭いグチを吐きまくって
個人的に再ブレークした感があります。
あの枠からあんなに「売れ直した」のは、岩井だけでしょう。

その理由は、
「イラだち方が本物だったから」だと思います。

岩井は他の「腐り芸人」たちと違って、
「売れないからグチッてる」とか、
「理解や評価をえられなくてグチッてる」とかって
レベルじゃなかった。

理想のお笑いをつくり、届けることができない葛藤。
理解してくれない周りへのイラ立ちをギャクにはしつつも、
己の無力を責めるムードが、何より強かった。


そんな岩井が、
先に大人気になった相方である澤部がいない場所で
「本音」の体当たり勝負で人気を再獲得したうえで、
4年ぶりにM-1にでることを決めた。
しかもこれが、最後のチャンスです。
(コンビ結成からの年数に制限があるから)


ハライチは「ノリボケ漫才」で有名です。

岩井が連発する小ボケに、澤部がノる。
のりはするけれど、相当ドギマギする。
(一部アドリブだとか)
その「澤部がどぎまぎするかわいらしさ」が、
見ていて優しい気持ちになるほど、微笑ましい。

過去のM-1でも「優勝候補」と
さんざん言われてきました。

「ハライチといえば、ノリボケ漫才」と
人気も定番化するぐらいになったけど、
優勝には……届かない。

過去にも4回、決勝ステージまで進みながらも
敗退しています。
(5、7、9、6位)


そして、最後の年。

「別に出場せずに済ませる」という選択肢も、
もちろんあったでしょう。

2人とも、もう充分に売れています。
賞を取らないと世に出られない立場……ではない。

今までの自分たちのやり方では、
「ウケはするけれども、優勝はできない」
ことも、わかっている。


それでも4年ぶりに出場を決めたのは、
どんな覚悟だったんでしょうね……


いざ、大会がはじまってみると、
「今度こそ優勝するんじゃないか」
という期待感がありながらも、決勝にスムースには行けず。
敗者復活戦でなんとか1位を獲得します。
(つまり、視聴者投票で1番人気)

ちなみにM-1では、
サンドイッチマンをはじめとして、
「敗者復活からの優勝!」というパターンもあります。

ますます盛り上がってきて、
いよいよの、決勝ステージ。

ハライチがやったのは、
「澤部のキュートさが鉄板のノリボケ漫才」
……では、ありませんでした。


澤部よりむしろ岩井が前面に出てくる。

ささいな会話の中で、
澤部にはけっこうきつい物言いをする岩井が、
澤部からちょっとだけ言い換えされたときに、
「ひくほど逆ギレする」……というネタでした。
人の3倍ぐらい傷つきやすい岩井が、
大声を出し、叫び、飛び上がって悔しがる。

澤部は軽く戸惑いながらも割と平熱で、
軽いツッコミを入れるぐらい。
澤部はほんのちょっと言い返すだけなのに、
岩井はとにかくヒステリックにキレる……。

ノリボケ漫才のときの、
平熱で小ボケをボソボソつぶやき続けるスタイルとは真逆で、
岩井の、岩井らしい感情の爆発を前面に出した、
エモーショナルな漫才でした。


結果……


決勝ステージで、敗退。

点数も、平均より低いもので、
1位決定戦をする3組には、
最後まで入れませんでした。


……ただ、
漫才が終わった後に感想を聞かれたとき、
「本当にやりたいことをやりました」
と、岩井は言い切りました。



そうか……


もちろん、満足したとは言えないでしょう。
期待されながら、最後もやっぱり、優勝はできなかった。
でも最後の最後、岩井は「やりたい漫才」で
ケジメをつけたのだと……
彼の中のM-1を、成仏させたんじゃないかと思いました。
悔しさをにじませながらも、
彼の顔は、すがすがしかった。


タレント活動は、今後も続いていくでしょう。
でも「日本一を目指す漫才師」というキャリアは、
あの場で終わりです。
それはある意味、自分の中の大切な一部が、引退するようなものでしょう。

そのケジメにもってきたネタは、
「評価されること」より「やりたいこと」を
優先させた自己表現だった。
その迷いのない岩井の決意は、
ぼくにはすごく気高いものに映りました。


最後までチャレンジャーとして、表現者として
見事な「散り際」を残した彼らは、
これからきっと、より「やりたいこと」を
濃密にやれるキャリアに導かれるんじゃないかと思います。

もちろん、
その「散り際」を目撃して心に刻んだ
テレビ関係者たちも、たくさんいるはずだし。


……そんなふうに、
ハライチの2人の姿に胸を打たれていたら、
審査員へのインタビューがまだ、
残っていました。


松っちゃんです。


「最後まで、あれだけ新しいことをやって、
 岩井の新しい面まで見せてくれて、
 笑いすぎて……ちょっと泣いてもうた。
 素晴らしかったと思う」


――と。
あの松本人志が、言いました。


なぜかぼくのほうが胸の詰まるような衝撃。
それも束の間、
次の瞬間、目に飛びこんできたのは、
お礼の言葉もいい切れず、
笑顔も半分しか作れない状態で、涙を必死でこらえる岩井の顔でした。


ぬおぉぉお……


よかったなぁ…………



松本人志ほど、どれだけ笑いが取れても
「パターン化」を拒絶し、新しいものを
つくり続けてきた人は、そういないでしょう。

昔のダウンタウンのトークやコントを見直せば見直すほど、
今の芸人さんたちが受けている影響が、
そのまま見てとれるほどです。
(ときには、パクりとしか思えないほどに)

すでにウケているものを手放す怖さも、
今までのやり方をぶち壊す苦労も、
今までのものと似てない創造をする神経の負担も、
誰よりもよく知っているはずの第一人者。

その松本人志にあんなこと言われたら、
そんな大先駆者に「共感」なんてされたら……

もしかしたら、
M-1で優勝するより、うれしいかも知れない。
(そりゃ優勝もできてたら、もっと良いんでしょうけど)


他の審査員のなかには、
「やっぱりオドオドする澤部が見たいんですよ」
という人も、いました。
もちろん、その気持ちも、わかります。

でもそこに甘えるほど、
岩井の理想は、低くなかったんだと思います。


最初のほうにも書きましたが、
「攻略」に走り過ぎると、
じわじわと確実に、自分の表現は死んでいきます。

それはおそらく、
芸人としての純度が高い人にすれば、
「自殺」に近いものなんだと思うんです。

ハライチは、それをしなかった。

芸人として見事に、
「死に花を咲かせた」んだと思います。

そしてその花に誰よりも心を動かしたのが、
松本人志だった。
「骨を拾う」という言い方がありますが、
まさに「岩井の芸人としての気骨」が、
大切に拾い上げられた瞬間を、ぼくは見た気がしました。

なんて最高の「終わらせ方」でしょう。


やりたくもないし、評価もされないこと。
評価はされるけど、やりたくないこと。
やりたいけど、評価はされないこと。
やりたい上に、評価もされること。


ぼくらの仕事の行く先には、4つのゾーンがあります。

もちろん、理想は、最後のやつです。
ウハウハ・ゾーンです。


とはいえ、最初からそこに行ける人なんて、いません。

それこそダウンタウンだって、
本格的に売れるまでには
けっこうな年数がかかっています。

その過程できっと、分かれるんです。

早めに評価を得るほうに走ってしまうのか、
やりたい表現を死なせないように死守できるのか。


「死守」できた人の先にだけ、
本当のウハウハ・ゾーンがあるのでしょう。


ハライチが16年かけた「幕引き」を見せてもらって、
ぼくは改めて、そう思いました。



ではでは、今日もお大事に。
「ゆずれない線」をどこに引くかは、
血を吐くような思いをしながら定めていく
ことなんだろうなぁ……