寺島先生、ご無沙汰しています。
お元気ですか?
あのころ以上に、太っちゃったり、してないですか?
この前、
芸能人が恩師に再会するテレビをみていて、
先生のことを思い出しました。
ぼくが中学生のとき、
あなたは、ピカピカつるつるの、新任でした。
第一印象から、とにかく、スーツが似合ってなかった(笑)
おなかも大きくて、汗だくで、
つまりつまり、自己紹介してた。
でも、声が大きかった。
明らかにシャイで緊張してるのに、
必死でぼくらとちゃんと目を合わせようとしてた。
「ああ、この人は、こっちを見ている」と、
強く伝わってきました。
あなたは、社会の先生でした。
黒板の字がちょっと汚くて、
やっぱり、つまりつまり、話してた。
でも、まるで
大好きな宝物でも分けてくれるような顔で、
楽しそうにしてた。
ぼくはあなたのおかげで、はじめて、
社会科が好きになりました。
あなたは、よく悩んでいました。
富山県内でも有数の強さの陸上部を、
すごい名将先生から、急に引き継がれてた。
本人は走るフォームも不格好で、足、すごい遅いのにね。
「うわぁ、俺、どうしたらいいんだ……」って、
いつも、顔に書いてあった。
背中にも、おなかにも書いてあった。
でも、生徒に熱心に教えてもらいながら、
遅くまで必死でグラウンドに残っていましたね。
ぼくはサッカー部のグラウンドからそれを見て、
自信のないキャプテンでもやれるだけやろうって、
いつも励まされてました。
あなたは急に、「プレイボーイ」を持ち込みました。
社会の授業中に「エロ本だ!」といって
中学男子がお祭り騒ぎになってた。
「これはエロ本じゃない。大事なことが書いてある。
お前たちが大人になったら、ぜひ読んで欲しい」
って言ってたけど、
あれ、あとで怒られたんでしょう?
でも、教科書じゃないものから学べって、
一生懸命、伝えようとしてくれたんですよね……多分。
ぼくは今でも、「普段なら絶対読まない雑誌」を、
定期的に読んでいます。
あなたに、一度だけ、怒鳴られたことがありました。
ぼくが授業中に友達とふざけていて、
教科書を投げてしまったときです。
「そんなことはするな、バカもん!」
って、教室がちょっと揺れるような声で、
叱ってくれた。
顔を真っ赤にしていて、本当はそのあと、
言うべきことがあったのかも知れないけれど、
その後、すごく辛そうに、黙り込んでしまった。
ぼくはあの姿を、忘れられません。
この身が裂けてしまいそうなほど気まずく、申し訳なかった。
真剣な人の真剣さをジャマすることが
どれだけひどいことか、あなたの沈黙で教わりました。
ぼくは今、
真剣によくなりたい人の手助けをすることを、
仕事にしています。
あれからもう20年。
先生も、もう50代目前でしょうか?
あなたの、
似合わないスーツ姿や、
悩んでばかりの背中や、
楽しさ先行の途切れ途切れの話し方や、
物議ばかりをかもした「プレイボーイ」や、
ふくれっ面の沈黙が、
どれだけ多くを、ぼくに残したか。
あなたはきっと、知らないでしょう。
ぼくは立派な人間にはなれていないけれど、
立派じゃないなりに、真剣に、
楽しくやっています。
寺島先生、お元気ですか?
幸せに過ごされていることを祈りつつ、
今もあの、悩ましい背中でいてくれたらいいな、
とも思うんです。
手紙は出さないけれど、
これだけは、お伝えしたかった。
あなたが見せてくれた、
ぜんぜん頼りなかった姿は、
いまでも、ぼくの頼りになってますよ。